斎藤千和VSおれ。 (追悼式会場)
おれがオタになったきっかけは友の死と『妄想科学シリーズ ワンダバスタイル』だった。
『ファーストガンダム』でもなく『カードキャプターさくら』でもなく『ワンダバスタイル』だった。
安易な萌え要素の奥に90年代後半を思わせる退廃的な負の感情を持ち合わせていたこの作品はゼロ年代の新しいムーブメントを欲する動きの中に到底馴染めていなかった。
その不安定さが当時少年だったおれに響いたかどうか定かではないが、おれはこの作品を以って真っ当に生きる事を放棄した。
『ワンダバスタイル』はワンダーファーム制作のメディアミックス作品であり、アニメのキャラクターの声を担当する声優達によって声優ユニット『みっくすJUICE』が結成され、メンバーは森永理科、中原麻衣、植田佳奈、そして斎藤千和であった。
当然、当時のおれも後に伝説となる声優ユニット「みっくすJUICE」に夢中になり、特に赤ジャージ姿で元気に吐血している女の子に強く惹かれた。
そう、秋茂あやめ役の斎藤千和氏である。
彼女の駆け出しの明るさの裏に影があるのは一目見てわかった。高橋名人に似てることもわかった。
おれは『ワンダバスタイル』以降さまざまなアニメを見ていく中でこれまたさまざまな声優の声を聞いてきたが斎藤千和よりもおれに安らぎを与える声質の声優は椎名へきるを除いてはついぞ今の今まで見つかっていない。
そう考えるとおれが一番好きな声優は「斎藤千和」であると言えるかもしれない。
ラジオでの自虐的な喋りも好きだったし、他の声優に見られるあざとさもなかった彼女のファンだった。
しかしながら、周知の通り斎藤千和は2013年7月29日、所属事務所の公式サイトにて、一般男性と入籍したことを発表した。
単に一番好きな声優が結婚してしまったという事実だけではない何かがおれの眼前には広がっていた。
何か2000年続いた文明が崩壊したかの様な、全人類が一斉に盲目になった様な感覚。
おれは元々声優の処女膜の有無や配偶者の有無を気にするタイプのオタではないし、むしろ声優の結婚により傷ついたオタを見るのを楽しみとして生きてきた男だ。
今更、ずっと好きだった声優が結婚しただけで感情が動くわけでもない。
一連の声優結婚ラッシュの際は白石涼子の時も門脇舞以の時も山本麻里安の時もTwitterで発狂したオタを煽るぐらいの元気はあったが別段それでおれの感情が揺るがされる事はない。
それなのに
そのはずなに
どうしたんだ。おれは。
これは涙なのか。
嬉しいのか。
おれは彼女に何を求めてたんだ。
彼女がラジオで語る喪女エピソードが虚言だなんてわかっていたはずなのに
孤独なのはオタだけなんて知ってたはずなのに
全部理解してるはずなのに、素直に「ご結婚おめでとうございます」という言葉が出てこない。
さようなら、斎藤千和。
たぶん、初恋だった。
おーんど おんど ぱーにぽに音頭♪
そしておれはこぶし大の血を吐血した。
ご結婚おめでとうございます。